忘れるためのなぐりがき

短編小説や、映画・アニメの感想を書いています。

雑な感想:『マンチェスター・バイ・ザ・シー』、『メッセージ』、鼠穴

2作について、核心的なネタバレがあります。
未見の人は注意して下さい。

悪夢のようなフラッシュバックとともに、選ばないことを選ぶ

▼過去のフラッシュバック:『マンチェスター・バイ・ザ・シー

(序)酷いネタバレ(という名のあらすじ)

田舎の港町で、妻と3人の子ども、友人らと楽しく暮らしていたリーは、ある夜、不注意から起こした火事により、子どもを全員死なせてしまう。

事件後、警察の取調室での会話。
「……事情は分かりました。あなたは、有罪にはならないでしょう」
「有罪には、ならないんですか?」
解放されたリーは、近くにいた警官の拳銃をかすって自殺を測るも、取り押さえられて死ぬことができなかった。

妻から責められ、町では勝手な噂を流される。
町にいることができなくなったリーは、ボストンに移り、アパートの管理人をしながら、日光が殆どささない半地下の部屋で、生きるようになる。
誰とも関係を作らず、消化試合のような人生。
あの時、自殺することができなかったかわりに、リー壊れ、死んでしまった。

そんなリーに、転機が訪れる。
兄が死に、「甥の後見人にはリーを」という遺言を勝手に作られたことが発覚するのだ。
兄は、深い愛情と人望を持つ男で、リーをひどく心配していた。半地下の部屋に引っ越した時にも、「これは人が住む部屋じゃない」と、家具を買い入れた。
その兄の子である甥も、父に劣らぬ好青年だ。父の死に打ちのめされつつも、友人や恋人、バンド活動やホッケーの助けを借り、立ち直っていく。
甥の後見人になることは、リーの人生にとって、確実に良い変化をもたらす選択だ。
が、その選択には「港町に戻らなければいけない」という条件がついていた。

町にいると、幸せだった頃の思い出と、その幸せをぶち壊した罪悪感が、勝手に呼び出されてしまう。
忘れようとしても、思わないようにしても、どうしても忘れられないのだ。
さらに、離婚して、現在は他の男性と家庭を作った元妻が、町には住んでいた。
町角でばったり会った妻は、ベビーカーを脇に、涙ながらにリーに懺悔をする。
「あの頃、私はあなたに凄い酷いことを言った。私の心も、あなたの心も、今でも壊れたまま。どうか許してほしい」

(破)「甥の後見人を引き受けるか、受けないか?」という、後見人サスペンス(なんだこれ!)
これが、サスペンスとして成立する理由が、過去に対する罪悪感(しかも、あんまりな事情)というのが、キツい。
序盤が肝。「この人、なんでこんなに寂しい生活を送ってるんだろう……」と、「久しぶりに帰った田舎をバックに、時系列不明なフラッシュバッグが炸裂」のコンボが、とても丁寧だった。
おかげで、基本的には港町の会話劇が中心(絵的にそこまで面白くない)なうえ、主人公の事情は中盤あっさりバラされるにも関わらず、「……わかった、わかった。で、後見人にはなるの、ならないの……?」という興味が、最後まで目を離せなかった。

(急)自分の罪を、自分からも他人からも、呪われ続ける港町。加えて、甥が光属性の本当に良い子で、だからこそ、一緒にいると自分の闇をどんどん自覚する。
この二重の負のループ、重すぎる。
ここまで読めば何となく察せられる通り、結局リーは、後見人を辞して、ボストンに帰ることを選ぶ。
だけど、ラストに甥と一緒にキャッチボールするシーン。
甥を「下手くそ!」ってdisった直後、リーも下手くそなことが判明して失笑しあう2人の、微かな希望の温度感がよかった。

 

▼未来のフラッシュバック:『メッセージ』

(序)ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督について。「『複製された男』結局見れてないけどどだったんだろう……?」とか、 「ブレードランナー続編に抜擢されたことで超有名監督仲間入りしたことを寂しく思う人が、タイムラインにいっぱいいるな……」を尻目に、去年タマフルで当たった『ボーダーライン』が、初見だった監督……。
また、原作小説(テッド・チャン『あなたの人生の物語』)は、別の文脈で読んでいた。「あれを、ボーダーラインの人が撮るのか!」と、ちょっぴり楽しみだった。
『ボーダーライン』も『メッセージ』も、「狭いトンネルを通って別世界へ旅行することを、視覚ごと説得してくる」という点が、共通している。
『ボーダーライン』では、ラストの赤外線カメラ。『メッセージ』では、序盤の、地上とは違うルールの重力に支配された通路のショット。

(破)『メッセージ』、身も蓋もない骨子は以下。
時の流れに縛られている人類とは違い、時間という概念を超えた存在の宇宙人から襲来を受けた地球。
彼らと濃密に接触してしまった言語学者は、彼らの言語(=世界の認識方法)を身に着け、自分の将来を見通せてしまうようになる。
それでも、その将来を選択するか?

(急)主人公が見通してしまった未来は、決して明るいものではない。
「近い将来、宇宙人のメッセージを一緒に解読していた男と結婚し、娘が生まれる。しかし、夫に『未来を見通せる』能力を告白し、批難されたことが原因で、離婚。見通した未来とは、娘は難病で若くして死ぬ、」というものだった。
主人公が、素晴らしすぎる人物なのが、キツい。彼女は、宇宙人から襲来という全く未知の困難を前に、性善説のもと、言語のプロフェッショナルとして粛々とミッションに携わる。「私達は会話をできるはず!」と言って、防衛服を脱いで宇宙人に素顔をさらしたり。「地球人は協力しあうべきだ!」と、劇中では非協力的な存在として描かれる中国やロシアとの協業を、諦め続けなかったり。そんな人物に、悲しみが待っているという悲劇。
主人公も観客も、未来を未来と気がつかない(……という前提が成り立っていることを前提にw)、娘との記憶を時系列不明なものとして最初からガンガン入れていくところが、原作以上に、面白かった。

 

▼脚本の先生が立川談志のファンだそうで、先週末、『落語のピン』「鼠穴」を、直前のトークと共に見させられた(見せて頂いた)

「鼠穴」一言で、こんなに悲壮な夢を見てしまう男(≒倉を気にする商人)を笑い飛ばす話、意味を求めるのは野暮なんだろう。が……、

①その時々の「覚悟」「意志」「マニュフェスト」は、あってないようなもので、人間はなるようにしかならない。
②鼠穴で全焼する(かもしれない)if世界を体感するからこそ、今生きていることに、感謝する。
③以上を踏まえたうえで、何を選んで、選ばないか。

 

▼人間の尊厳が、物理的にも精神的にもバッキリ折れ、そこから出てくる魂のSOS(笑)に、関心があるのかもしれなかった。