忘れるためのなぐりがき

短編小説や、映画・アニメの感想を書いています。

雑な感想:『竜二』(1983) 物語は「もしも」で出来ている

脚本の先生が、良いドラマとは「キャラクターの内面が変化した/しなかった(結果)」より「変化に直面していかに葛藤したか(過程)がちゃんとあるか?」で決る、と話していたのが印象に残り、例として挙げた『竜二』を、さっそく観た。
ヤクザの竜二が、奥さんと娘ができて一度は足を洗うも、結局はヤクザの世界に戻ってしまう、という物語。

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 ▼序:ヤクザ者としての竜二の哀愁

ヤクザの若頭として、そこそこ成功を収める竜二だが、毎日、名伏し難い不安感を抱えていた。
その原因は、3年前にやむを得ない事情で別れた、妻と娘の存在だった。
お金にはもう飽きた。何もかも捨てて、娘に会いたい。
かつて同じような不安を抱え堅気になった先輩に後押しされ、とうとうヤクザを辞めることに。
 
▼破:束の間の幸せ
足を洗って、奥さんに連絡した竜二。
奥さんの実家に初めて伺う。温かく迎えられ、前途洋洋の再スタート。
が、「家業の蒲鉾工場を継がないか?」という義兄の誘いに、「……いえ、先輩が世話してくれた仕事があるんで、ひとまず自分一人でなんとかやってみます」と断りを入れる。その横で、「かまぼこ大好き!」とはしゃぐ娘。早くも、今後の人生に不穏感が漂う。
 
町の酒屋に就職し、小さなアパートを借り、奥さんと娘と、貧しいながら幸せな生活が始まる。
慣れない仕事をせいいっぱい勤め、帰宅し、奥さんに注いでもらうビールが美味しかったり。
時には、仮病を使って仕事を休み、朝から奥さんとイチャイチャしたり。
「堅気になってよかった……」とこぼす竜二の言葉に、嘘はない。
 
▼急:なるようにしかならない
そんな幸せも、長くは続かなかった。
ヤクザをしていたら3日で消えるような額の月給で、一ヶ月の家計簿を何とかやりくりしようとする奥さんの姿に、違和感を覚えたり。
娘を「生意気になってきた」と評しはじめたり。
 
三か月目の給料日の夜、覚せい剤中毒者になり果てた仲間に遭遇し、金をせびられる。
思わず殴りつけたところ、立ち上がれず、そのまま地べたですすり泣く仲間。
竜二は、給料袋に手を付けることができず、財布から少しばかりの現金を出し、その場を立ち去る。
仲間は数日後に死んだ。
 
また別の夜、かつての舎弟が、竜二の家を訪れる。
立派なスーツを着込み、高価そうなプレゼントを娘に与えた舎弟は、弟分だった頃とは、見違える風格である。
そんな舎弟に呼応するかのように、その夜の竜二も、ヤクザだった頃の野生のぎらつきを取り戻す。
舎弟が帰宅した後、奥さんは思わず、自分から竜二を求める。はじめは気だるげに放っておいた竜二だが、結局は奥さんに応えた。
パジャマを脱ぎ捨てた背中から、びっしり掘られた刺青が覗く。
 
竜二は、ある日とうとう、「あんた、むかし悪かったんだって? 俺も昔、名古屋でちょっと悪かったんだよ。○○会っていうところの……」と自慢話を始めた店長に、「……だから、何だって言うんですか」と突っ返し、手の甲に煙草を押し付ける。
その足で帰ってきた商店街、精肉店の大安売りの行列に並ぶ奥さんと娘を、目撃してしまう。
遠距離で、しばし目が合う2人。
竜二は無言で踵を返す。
 
映画はざっくり此処で終り。
 
▼見終わってみると、主人公の竜二が、堅気の生活を送るなかで、ヤクザ者の血にどうしても抗えない……という葛藤がちゃんとあることはもとより、「叶わなかった夢は、叶えてないから美しいのであって、叶ってしまったらあとは幻滅が残るだけ」という身も蓋も無いリアリティの温度が、心地良いなと思った。
ハリウッド式のポジティブではなく、といって「人はなるようになるようにしかなれない(から今日をたのしもーぜ!)」に開き直れるわけでもない、ギリギリの無常感。
 
商店街で竜二に取り残された母子の会話
「おばあちゃんの家に帰ろっか?」「また、全日空に乗れるの?」「乗れるよ……(娘の肩に顔をうずめて泣く)」
→直後、竜二が新宿の雑踏を歩く姿を遠巻きに数秒映す
→エンドロール
 
という幕切れが、大変鮮やかで、シンプルで、完璧だった!
これがもし、「数年後、立派な椅子に腰かけながら、奥さんと娘の写真を見る竜二の背中」みたいな絵で終わってたら、「色々色々気持ちはわかるけどお前いい加減にしろ!!!!」と、パソコンを叩きつけていた。
 
▼この人は、だれ。
全然知らなかったんですが、この映画の主演を務め、かつ、これが自主映画処女作っていう金子正次(鈴木明夫)という人物。この人は、いったい誰なんだろう。
『竜二』の公開直後に、33歳で死んだという。
ぶっちゃけ、21分あたりで唐突に流れた『プレイバック』に、ちょっぴり暑苦しい押し付けがましさを感じた。
なぜかというと、この場面は、夜の街でさまよう竜二の焦燥感を表現するところであって、『プレイバック』は確かにあってるけど、もっと違う曲でいいんじゃないか……っていう、微妙な選曲だったからだ(正直、イントロで失笑した)。
が、それは、死期を悟ったこの人が遺言代りに、「俺が心から俺の歌だと思って好きだった曲を、聞いてくれ……」っていう気持ちで入れた、魂の選曲なのかもしれない。
 

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