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忘れるためのなぐりがき

短編小説や、映画・アニメの感想を書いています。

『牯嶺街少年殺人事件』:映画館でなければギブアップしていた4時間の果てに (※ネタバレあり)

「伝わる言葉を磨く訓練をしたいw」……と思い、140字でぼわーっと発信できるtwitterについては、発信することを辞めました。浅い見方しかできていないことが恥ずかしいですが、自習のために、ブログは時たま更新します。今後とも、よろしくお願いいたします。

4/16 訂正 自分で自分がバカみたいですが、再開しました……ツイッターやりながら、ゆるく新生活をやっていこうと思います。

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映画を見て、久しぶりに、心が内出血した。

夜間中学校に通う主人公が、懐中電灯を頼りに、先が見えない真っ暗闇を手探りで進み、✕✕✕✕✕するまでの4時間。

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 【序】上映時間の約4時間は、長すぎる。

メインストーリー(14歳の主人公がガールフレンドを殺害するまで)に、直接的には関係ない複数のサブストーリーが並行して進むので、前後の繋がりがみえない時が多く、見ていて少々辛かった(俗にいえば、飽きた)。
※余談ながら、ほぼほぼ全席埋まっていた武蔵野館の他のお客さんも同じような倦怠感を覚えていたようで、上映中に席を立ったり戻ったリした人が5人くらいいたし、隣の席の方は途中で寝ちゃってたし、反対側の隣の方も途中からかなりリラックスした姿勢になって、異様な雰囲気が面白かった。

しかし、この複数のサブストーリー、「直接的には関係ない」というのが超ポイントで、実はどのサブストーリーも、メインストーリーに間接的には関係している。
つまり、「何が決定的な原因となって、主人公は殺人事件を起こしたか」という原因が、はっきり無いのだ。
自分が属する不良グループのリーダーが敵対グループに殺されたことへの怒り、信じていたヒロインが超ビッチだったと判明した絶望、家族の問題、自身の将来の問題。
こうしたストレス要因が、複雑に複雑に絡み合って主人公を押しつぶした結果、ヒロインは殺される。
これって、凄く現実世界に近いと思う。

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【破】肝心のメインストーリーについて、静止×引きを中心とした構図による「安易な共感を拒む」スタイルが、狙い通り厳しい印象に働いている場面(ポジティブ) と、シュールな笑いへ転化してしまっているように見える場面(ネガティブ) とあり、主人公の内面の葛藤をずっと追い続けられるかと言われたら、ちょっと微妙だった。しかし、シーンごとに見れば、冴えわたった演出が沢山あった。

・基本的に画面が暗い(暗転も多用)。暗闇から飛んでくるバスケットボール、シルエットしかわからない日本刀での集団殺人シーン(?!)、部屋の電気を無駄にかちかちさせて画面全体を点滅させる、など、「暗闇を導入するだけで、こんな絵が作れるのか!」と、フレッシュな嬉しさがあった。
・上記と関連して、懐中電灯というモチーフの使い方がうまい。懐中電灯は、自分が照らした先しか見えないだけでなく、照らされた側にとっては酷く迷惑な、自分勝手な行動ともいえる。しかも、照らし出されて暗闇から発見されるのが、血まみれの惨殺死体だったりする!!! 個人的な趣味として、中盤の集団殺害現場散策シーンの愉悦感が最高!だった。
・喋る人物の声だけ聞こえて画面には映さない、人物の身体の一部(足など)しか見せないなど、画面以外に広がる余白を感じさせる構図。断片しかないことが、逆に大きな全体を想起させる……という手法(「ミロのヴィーナス」スキーム)は、直接的に全体を見せるよりも、豊かな広がりを描けるような気がしていて、大好きです。

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【急】ラストについて。

 「僕だけが、君を救えるんだ! 君の光になるんだ!」

「私を変える気? この社会と同じ。何も変わらないのよ」

「君は恥知らずだ!……(主人公、ヒロインを殺害)……立って。ねぇ、君は立てるって信じてる。お願い、立ち上がって……!」

※台詞あいまい

 

モテまくるヒロインは一見、一方的に主人公を振り回す(傷つける)超わがままな女の子に見えるが、「男の人って、私に何か問題が起きるとすぐに逃げる」という発言や、「病気がちな母と親戚の家を転々とする肩身の狭い生活を送っている」って設定から、彼女は世の中に何の期待もしなくなってしまった気分でいることに、なんだか説得されてしまう。そんな彼女だから、主人公の想いは届かなかった(あるいは、彼女が欲しかった想いと、違っていた)。
「私のこと騙さないでね。騙されるのは、もう嫌だから。」

 

一方の主人公は、彼の父親同様に、将来が見えない(或いは一般的に考えてお先真っ暗な)状況のもと、「この苦しい現状を打開するには、ひたすら頑張るしかない」状態に追い込まれている。そんな時、さっと目の前に現れたヒロイン。彼女を救いたいというよりも、寧ろ彼自身が救われたかったのだろう。その思いをエゴだと看過され、救いの梯子を外された時、主人公に残された選択肢は、彼女を殺すことだけだった。

事件後の取調べ室で、Tシャツを着替えさせられようとした時の、主人公の抵抗ぶりが忘れられない。彼にとって、殺害時に着用していたTシャツに残った返り血しか、もはや彼女と彼を繋ぐものがないのだ。

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主人公に対し、「その恋を諦めて、夜間部から昼間の学校へ移る試験勉強に専念して、光あるうちに光の中を歩むんだ!!」……って叱咤激励する気持ちには、なんだかなれなかった。

その理由として、「濃密な4時間を主人公と付き合ってしまったから」というのは勿論あるが、彼女をめった刺しに傷つけることでしか恋を終わらせることができなかった、そのくらい自分勝手になってしまうくらいに誰かを一方的に欲してしまうという恋の在り方、返り血のTシャツに縋り続ける季節、そのズルさへの自覚と苦しさに、覚えがあるから。

 

見る人(と、体力と、時間)を激しく選ぶ作品であることは間違いないが、気になっている人は劇場公開されているうちに行く方がいいと思う。

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