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忘れるためのなぐりがき

短編小説や、映画・アニメの感想を書いています。

雑な感想:映画『金メダル男』 ※ネタバレあり

「監督はお笑い芸人、主演はジャニーズ、どうせゴミ映画だろ?」って、4時間前は思っていましたよ。
そう、見る前は……

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【解説】「ウッチャンナンチャン」の内村光良が3年ぶりに手がけた監督作で、原作・脚本・主演も務めたコメディドラマ。2011年に東京・サンシャイン劇場で上演された内村の1人舞台「東京オリンピック生まれの男」をもとに、あらゆる一等賞を獲ることに挑み続ける男のおかしくも切ない人生を描く。東京オリンピックで日本中が盛り上がる1964年、長野県塩尻市で生まれた秋田泉一。小学校時代に徒競走で一等賞になり、一番になることの素晴らしさを知った泉一は、絵画から火おこしまで様々な大会で金メダルを獲得していく。いつしか「塩尻の神童」と呼ばれるようになった彼は、その後もすべての金メダルを獲るべく奮闘を続けるが……。内村扮する主人公の青年時代を「Hey! Say! JUMP」の知念侑李が演じるほか、共演にも木村多江ムロツヨシ笑福亭鶴瓶ら個性豊かなメンバーが集結。 (金メダル男 : 作品情報 - 映画.com

 お笑いを全く知らないので、ウッチャンナンチャン内村光良について、名前聞いたことある程度でした。まして俳優としての内村光良は、むかし香取慎吾主演でやってた『西遊記』で、そういえば沙悟浄やってたかな~~???くらい。

いつも聞いているラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』で、今週の映画批評課題にならなければ、絶対に見なかった作品です。

小学生の時に、かけっこで一等賞になった経験に味をしめ、その後も絵画や書道、図画工作といった小学生らしい手習いから、火おこし大会、魚掴み大会、大声大会といった謎の大会まで(実はこのチョイスが後から効いてくる)、色んな大会に挑戦しては「1位」を獲得してきた泉一少年。しかし、いざ中学校に上がると、小学校の時の手柄が「井の中の蛙」だったことがわかります。あげく、異性に惑わされて競技に集中できず、水泳や剣道で次々に失敗。それでもめげずに「1位」を狙う泉一は、次々に新しい分野に挑戦しては失敗しまた挑戦し……という、七転び八起きの人生を歩んでいきます。

落語みたいな映画でした。何度失敗しても、分をわきまえず1位を狙い続ける泉一というキャラクターは、作中でキャラ本人も自覚しているとおり、とても頭が悪いです。普通だったら、途中で気がつき、現実と折り合いをつけます。なのに彼は、生まれ故郷の長野で1位になれなかったら東京で1位を目指す。東京で1位になれなかったら世界(?!)で1位を目指す。と、いつまで経っても成長しません。
そうして挑戦した「日本人初!手漕ぎボート太平洋横断」の途中、遭難して無人島に流された泉一(凄い展開ですが!)、木の棒を使った剣道ワザでハゲワシを撃退するのを始め、火おこし、魚掴み、掘っ建て小屋自作など、これまで身に着けたスキルを活かし、なんと7か月間も生き延びる。もう、この無人島シーンのバカバカしさが最高でした。最後は通りかかった船に、自慢の大声で助けを求め、無事に生還。「無人島から還った男」として、一時日本一の有名人になり講演やテレビの仕事が舞い込んできます。が、次第に世間から忘れ去られていく……。

他に、頭の悪い感想:
・知念くんダンスうま!
・高校時代の泉一が文化祭でやった1人芝居『坂本龍馬 その生と死』のバカバカしさにツボった
・昭和っぽい日本家屋内でローアングルだとか、左右対称の端正な画面だとかに、「映画監督を目指していた」という内村監督のこだわりがもしかしたらあるのかもしれないみたいな適当

※知念くんも、コメディ頑張ってます。

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泉一の1位に対する執念は、ちょっと特殊で共感しづらいですが、私自身も、小さい頃から繰り返し「将来の夢は何?」と問われ、「夢を持ち、努力して叶えるべきだ」「何事かを成し遂げるべきだ」という見えない圧力の中で、育ったような気がします。泉一のように「成すことができない」人間は、普通「ダメ」の失格を押され、「挫折」という自覚を渡されます。そうした「成し遂げられなさ」を、この映画は冷たく突き放すのではなく、あったかい笑いで肯定してあげているように思えました。ちょうど、ひょんな縁から泉一と結婚することになった元アイドルの頼子(木村多江)が、自分もまたかつて「成すことができな」かったことから、泉一の挑戦と失敗をあくまで温かく応援してあげているように。そういう意味では、最後の最後まで1位を諦めず、成長しないキャラとして終わったのも良かった気がします(これが最後に成長してしまうキャラクターだと「諦める」ことへの肯定になってしまい、「成し遂げられなさ」の肯定と意味が変わってしまうからです)。このような「成し遂げられない人間」を描いた作品として、最近で想起するのは大ヒットTVアニメ『おそ松さん』なのですがw、今作は「ニートで童貞」を開き直る『おそ松さん』とはまた違ったベクトルで、現代人に癒しを与える作品だと感じました。

唯一引っかかったのは、高校時代の泉一が映画少年だった、という設定です。映画鑑賞には1位がないことに加え、世の中にはいろいろな生き方がある(一つの生き方だけが全てじゃない)ってことを2時間で教えてくれるのが映画だと思っているので、多感な10代に映画をそれなりに見た人は、1位を目指し続けないと思うんです。監督自身の経験が多分に移されたキャラクターゆえの設定ですが、要らないんじゃなかったと。あくまで個人的なド偏見でした。

ラストショット、小学校から帰ってきた息子の「かけっこで1位を取ったよ!」という報告を聞いて、静かに、でも本当に嬉しそうにほほ笑む泉一の表情が、忘れられません。