忘れるためのなぐりがき

短編小説や、映画・アニメの感想を書いています。

自作短編「自己実現」

その鶏は、ヒヨコの頃からチビで、鬼ごっこやサッカーを友達のようには上手くできなかった。いつしか、「友達がみんなで自分を妨害しているんだ、運動神経が鈍い自分を恥さらしにして楽しんでいるんだ」と思い込むようになった。
シュートに失敗するたび、「バカにするな!今に見てろ!」と叫ぶ声は、あまりに甲高く女々しかったから、周りは失笑を禁じ得なかった。自然と、鶏に絡む仲間はいなくなった。
孤立は深まり、鶏はますます、妄想をたくましくした。
 
鶏が飼われている牧場は、動物の生活時間と人間の生活時間を合わせるために、真夜中までランプを煌々と照らすなどの工夫がされている。
しかし、「24時間周りと戦っている」鶏は、牧場の方針などそっちのけで日の出前には起き出し、ブツブツ独り言をしながら牧場を当てもなく彷徨うことが、日課になっていた。
 
ある朝、たまたま牧場主一家の居室の前を通りかかると、中から会話が聞こえてきた。
 
「エミリー、また今朝も起きなかっただろう!牧場の手伝いをしてもらうって決めたじゃないか。」
「文句があるなら目覚まし時計に言ってよ。こんなちょっとのお小遣いじゃ、オンボロ時計しか買えないんだもん!起きてほしかったら、お金頂戴!」
 
どうやら、牧場主のおじさんとその娘が、起床時刻について揉めているようだ。
鶏はとっさに嘶いた。
 
コッケコーーーー
 
「おい、これなら起きるだろ?」
「はぁ~?パパ、人の話聞いてた?」
 
こうして鶏は、鶏小屋から一匹隔離され、牧場主一家の玄関に目覚ましとして飼われることになった。
 
日の出を少し過ぎた頃、鶏が甲高く鳴き声ともに、牧場主一家の長い一日は始まる。
彼らの朝の仕事には、もちろん、鶏小屋での作業も含まれていた。
牧場の鶏は数百羽。若いメスは採卵に、オスは食肉用として出荷に、老いた者は羽毛用に供された。
かつての仲間が虚しく抵抗し、敗北する姿を見かけるたび、鶏はますます誇らしげに、一家に夜明けを告げた。