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忘れるためのなぐりがき

短編小説や、映画・アニメの感想を書いています。

自作短編「お猿のタルタル」

ショートショート
タルタルは、生まれて間もなくお母さん猿と離れ離れになり、田舎道のはじっこでぶるぶる震えていたところを、デミグラスサーカス団のウスターに拾われた。
ウスターはサーカスの飼育係だ。楽屋に果物の差し入れがあると自分より先に動物にあげてしまうような男で、タルタルはすぐに大好きになった。サーカスにはライオンやゾウ、たくさんの白鳩がいて、ウスターの厳しい訓練のもと、玉乗りや日の輪くぐりでお客を楽しませていた。
タルタルは2歳になると、自発的に芸を教えてらうようになった。どうやら運動神経がよくなく、芸を覚えるのが下手だった。
だからそのうち、先輩の動物たちから、いじめられるようになった。
 
「やーいやーい、タダ飯くらいの役立たず」
「今日もお手玉ができなかったんだって?明日は綱渡りにしたらどう?」
 
檻のすみっこでポロポロ泣いていると、ウスターは優しく声をかけた。
 
「タルタルにはタルタルの素晴らしさがあるんだから、気にするんじゃないよ。いつか、ぴったりの仕事を見つけよう。」
 
そうしてウスターは、約束通り、タルタルにぴったりの仕事を探してきてくれた。
前座だ。これなら、たとえドジをやっても、客席を暖められたら御の字だ。
出番を終えて袖口に戻ると、ウスターは満足げにタルタルを撫で、バナナを1本渡してくれた。
 
「やっぱり君は素晴らしいおサルさんだ!」
 
タルタルはそのときが、1番幸せで、誇らしい気持になった。
 
相変わらず仲間の動物たちからはバカにされ続けたし、口の悪いお客から辛辣なヤジが飛んでくることもあったが、 全く気にしなかった。大好きなウスターのために、一生懸命笑いものになった。
 
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そんなある日、しばらくの間サーカスを離れ、南へ遊学していた副団長が、真っ白い毛並みのオランウータンを連れて、サーカスに戻ってきた。
サーカス一座は色めき立ち、噂が飛び交った。
 
「今はまだ赤ん坊だが、じきにステージに立たせるらしい」
「いや、ステージには出さず、あくまで副団員のペットのようだ」
 
タルタルは気にしなかった。
副団長とはほとんど関わりがなかったし、サーカスの動物の配役は、他ならぬウスターが決めていたからだ。ウスターがタルタルを前座から外すなんてことは、タルタルには全く考えられなかった。
 
しかし、そのうち副団長に連れられて、オランウータンがタルタルの前座を見学するようになった。
そしてとうとう、1日限りの触れ込みで、ピエロと一緒にオランウータンが前座に立った。珍しい真っ白オランウータンの登場に、客席は大いに沸いた。
 
心配そうにステージを見ていたタルタルに、ウスターはバナナを差し出した。
 
「知り合いの動物園に、サルが足りていないんだ。明日から行ってくれないかな。」
 
タルタルの不安は、サーッと消えた。なぜなら、ウスターの顔はいつものように満足そうだったから。
 
礼儀正しくバナナを受け取り、タルタルは袖口から出て行った。
それ以来タルタルを見た者はいなかった。