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忘れるためのなぐりがき

短編小説や、映画・アニメの感想を書いています。

2次創作「続・小野くんの恋」

ショートショート
強さの違い。
 
http://ladyrossa.hatenablog.com/entry/2016/02/11/004451
の続きです!
なかじまさん、本当にすみません……






 
 
付き合ってほしいという小野の告白を、彼女はあっさり断った。
 
「どうして…?正直、君も同じ気持ちだと思っていたのに」
 
小野は、そこそこ名の知れた建築士だ。いくら食べても太らない体質で、若い時こそは体の線の細さに悩んだものの、中年となった今では年に似つかわない若さを獲得していた。これまで結婚していなかったのは、ひとえに仕事が忙しかったせいだ。正直なところ遊ぶ女の子には不自由はしていない。
だから、真剣に女の人と付き合おうと思うようになったこと、それも女子アナやCAやモデルの卵ではなく、近所のパン屋に勤めているサンドイッチ作りが上手な女性――決して華やかな外見ではない――相手にそのような気持ちになったことが、小野にとっては小さいけれど、確かな変化だった。
 
彼女とは、何度か食事に行って、休日を潰すデートもして、いい雰囲気になっていると思っていた。少なくとも、嫌われているとは感じなかった。会うたびに、彼女は何かしら面白い発見を小野にくれた。例えば、30歳を過ぎているのに休日はずっとテレビゲームをしていたりだとか、待ち合わせの時にブルガーゴフの短編を読んでいたりとか、ふだんはカップラーメンばかり食べていたりするとか(あれほど完璧なサンドイッチを作るのだから、てっきり美味しいものに目がないかと思っていた!)。彼女のそういう側面を知っても、小野は幻滅しなかった。むしろ彼女をもっと知りたくなった。そして、相変わらず彼女の作るサンドイッチは完璧で、パンを切る手は美しかった。
つまり、ありふれた恋愛小説のように、小野は彼女に夢中になってしまっていた。
今日のデートも、告白することを踏まえて、小野なりに彼女好みのプランにしたつもりだ。前から気になると言っていたハリウッドのB級アクション映画を見て、それからそこそこ値段の張るバーに行った。その店は、店の真ん中に巨大な水槽を置くという珍しい作りをしていた(彼女は生き物を見るのが大好きなのだ)。
 
「うーん、小野さんのことは嫌いじゃないし、一緒にいると楽しいけど。」
「じゃあ、何が不満なの?」
「ぶっちゃけ、付き合いたいって思わないんだよね。」
「…そっか。」
 
単純に、彼女は小野のことを好きではない、ということだ。
 
「わかった。じゃあ、せめてたまにサンドイッチ食べに行くのは、許してほしい。」
 
落胆したのは確かだが、それが言えるくらいは、小野は大人だった。
彼女は空っぽのお冷のグラスに鼻を突っ込んでいた。
 
「うんうん、またいつでもお店に来てよ。それに誘ってくれたら、また一緒に出掛けるよ。 なんだったら、小野さんの家にも遊びに行ってあげる。」
「…は?」
「私にフラれて、がっかりしたでしょ。」
「う、うん、まぁ……」
 
話の行方が見えない小野が困り果てる一方、彼女はニヤリと笑った。
 
「よし決めた、やっぱり付き合ってあげる。」
「え?」
「だって、私を彼女にしたいんでしょ。」
「いや、まぁ、そうなんだけど、でも君は……」
「その代わり、結婚してくれとかそいういうのはナシね。僕のために毎日サンドイッチを作ってくれって言われたって、無理だから。」
 
彼女が毎朝自分のためにパンを切ってくれる姿を想像したことがあった小野は、ちょっと傷ついた。
 
「そんなダサい言い方はしないかな。というか、さっきから、冗談?本当にいいの?」
「小野さんていつもオシャレで、いっぱいお店知ってて、お金持ちで仕事もできて、なんかこう、完成しちゃってるっていうか、完璧なんだよね。私と付き合わなくたって、すでにもう幸せでしょ?」
「……幸せかどうかは別にして、まぁ、仕事もプライベートも、正直恵まれている方だとは思う。」
「だから、小野さんの幸せには興味ないけど、困らせるんならやってみたい。」
「……」
「呆れた?」
「……ちょっとね。」
「だったらやっぱり、私と付き合わないほうがいいよ。」
 
そう言って、彼女は席を立った。
 
「明日も仕事あるから、もう行くね。ご馳走様。」
 
小野は、残された席で呆然とグラスを眺めるだけだった。
回遊していた魚たちが、きらきらとウロコをなびかせながら、水草の奥へ消えていった。