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忘れるためのなぐりがき

短編小説や、映画・アニメの感想を書いています。

自作短編「しっかりしなくちゃ」

ショートショート
名字の都合で長らく隣が空席だったWは、クラスで1番初めに転校生Mの隣人になり、それ以来何かとMと話すようになった。
Mは取り立てて特技も趣味もないが、目についた出来事にポンポンとコメントをする、おしゃべりな男だった。父親の都合でこちらに来て、母親もすぐにパートを始め、1人っ子で家には亀が2匹いて……というようなことも、聞きもしないのに教えてくれた。
手持ち無沙汰の時間に暇を潰す相手として、WはMに悪い印象は抱いていなかった。
 
ある昼休みの終わりに、Wが所属するグループの女子の1人が、「ぶっちゃけ、Mってちょっとうざくない?」と言い出した。
「昨日掃除で雑巾洗ってたらさ、そんなことするとまた手が荒れるよ、って言ってきたんだよ。しかもさ、どことなくドヤ顔なの」
「あーなんかわかる!こないだ、Y先生のことを、ああいう女はきっと結婚できないねって言ってた」
「なにそれ。ワイセンのこと何も知らないのに、何様って感じ」
Wは、友達の話を聞いているうちに、Mは発言が一言余計な人間であるような気がしてきた。
「まー別にどうでもいいんだけどさ。ああいうやつ、なんか生理的に無理」
リーダー格の発言と同時にチャイムが鳴り、昼休みが終わった。
 
Wは、午後の授業を聞きながらゆっくり、昼休みの会話を反芻した。
Mに対する自分の評価と友人たちの評価がズレていたことに、慄いた。
放課後の始まりは、授業内容や教師についてMのコメントを聞くのが定例になっていたが、今日はMに話しかけられるより先に席を立ち、その後も目を合わせないよう心掛けた。
あいつは、嫌っていいやつなんだ。 あぶないあぶない、しっかりしなくちゃ。