忘れるためのなぐりがき

短編小説や、映画・アニメの感想を書いています。

自作短編「名誉の絵画」

昔、とあるヨーロッパの町に、大層腕のいい画家がいた。教会や貴族からの注文がひっきりなしに入った。
顧客が欲しがるのはたいてい同じような絵だったから、町の一角に大きな工房を作り、何十人もの弟子を雇い、下絵を用意して、どんな注文にもすぐに対応できるような体制を整えた。そのおかげで、絵のうまさに加えて仕事の早さが評判を呼び、画家の名声はますます高まり、王様から領地を賜って小さな屋敷を立てるほど、立派な身分になった。
そんなある日、貧しい夫婦が、重い病にかかった息子にせめてもの慰めを与えたいと願い、画家に絵を頼みに来た。
夫婦の服装を見るなり、画家は即座に注文を断った。しかしこちらは大切な息子のため。2人はいくら断っても引き下がらず、しつこく頼んでくる。半ばヤケクソになった画家は、余り紙と木炭を使ってその場でささっと絵を描くと、法外な値段を言い渡した。2人はなけなしの金でその絵を買った。
 
それから500年たった現在、その画家の作品は、同時代の標準の域を出ない通俗で凡庸なモノだと評され、誰一人見向きもしなかったが、ただ1点残る木炭の素描だけは、その時代には珍しいタイプの作品として、教科書のはじっこに取り上げる出版社があったりなかったりする。