忘れるためのなぐりがき

短編小説や、映画・アニメの感想を書いています。

2次創作「小野くんの恋」

惑星Pitääのねこうさぎ」に登場する、建築士の小野くんというキャラクターが元ネタです!
 
(参考URL)2016/1/23 ねこうさぎ4コマ(第812話)『はじまり』
 
「仕事バリバリのカッコいい大人って、どう恋愛するんだろう……?」という思いから書いてみたんですが、カッコいい大人どころか、麺類やカレーやお酒に合う食べ物以外に心を奪われる成人男性が全く想像できず、これが限界でした……
それに、飲食店で働く方は、仕事中はたとえ結婚指輪でも外すと思うので、私の小野くんはとても残念な感じです。
作者のなかじまさん、本当にすみません……
 
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最近よく行くベーカリーカフェに、サンドイッチ作りが上手な女の人がいた。
元からパンが美味しい店で、忙しくて昼食を外に食べに行けない日には、明太フランスだのチョココロネだのを、テイクアウトでよく利用していた。
たまたま時間にゆとりが出来た日に、日ごろお世話になっている恩返しのつもりでカフェに入ってみたら、見事にやられたというわけだ。使っているパンを即座に尋ね(1人暮らしの冷蔵庫事情を鑑みず)、買って帰ってしまった。
彼女は毎日出勤しているわけではないので、他のスタッフが作るサンドイッチに当たることもあった。やはり彼女のが1番だった。パンの厚み、野菜の水切り具合、何もかもが完璧だ。
そのうち、何かに気が付いたスタッフが、「火、水、土、日ですよ」と耳打ちしてくれた。さすがに週4は通えなかったが、できる限り彼女のサンドイッチを食べに行くようになった。
彼女は推定僕より5、6歳年下、すなわち30代後半。化粧っ気がなく、いつも黒髪を1つにひっ束ね、比較的若いアルバイトが務める店内の中では、不愛想の類に入った。それでも僕が訪ねると、注文を取りもせず「BLTですね」と笑う。
余計なアクセサリーを何1つ付けていない白い手が、魔法のようにサンドイッチを組み立てる様は、いくら見ても退屈しなかった。
 
だから、ある火曜日に彼女が店にいなかった時、必要以上に動揺したのだ。
次の日もその週末も、それ以来彼女は店にいなかった。
平静を装いつつ、ホットサンドとカプチーノを注文したら、若い女の子がニヤニヤ笑いかけてきた。
「田舎のお父様が倒れたみたいですよ。それで、しばらくはあっちにいるって」
辞めたわけじゃなかった、とホッとした自分が、どこか気持ち悪かった。
 
いい加減、大人なんだから。そういうのは、とっくに卒業したんだから。
 
再来週までにクライアントに出すプレゼンを考えなくちゃいけないし、来月にはとある商業施設の設計コンペが待っている。それにほら、学生時代の友人から、今度の合コンに誘われているし。相手は年下のスチュワーデス軍団だ。
40歳過ぎて胃袋を掴まれたとか、冗談にもならない。しかも職場から近所のパン屋で……。
出されたホットサンドをお冷で飲み下し、食後のコーヒーを待たずに店を出たきり、僕は店に行かなくなった。
 
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あれから1年と少しが過ぎた2月、相変わらず僕は、忙しく働いていた。
去年手がけた商業施設のデザインがちょっとした話題になって以来、事務所のスタッフは2倍に増え、時折海外出張も入るようになった。
忙しさに比例して、昼食の値段はどんどん下がっていった。最近ハマっているのは、タイムラインで流行している「10分どんべえ」だ。
若いスタッフが、パリジャンサンドを齧りながら、「たまには野菜も摂らないと身体壊しますよ~」と笑った。
……ちょっと待て。そのサンドイッチは、どこの店の
「ほら、近所にあるでしょ。安いけど結構うまいんすよ。なんなら明日、買ってきましょうか?」
カレンダーを見ると、今日は月曜日だった。
 
少し慎重に扉を開けると、まるで1年間時計が止まっていたかのように彼女がいて、注文を伝える前に「BLTですね」と笑った。
1年前のように、パンを切る指先をそれとなく確認した。相変わらず、アクセサリーは何1つ付いていなかった。