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忘れるためのなぐりがき

短編小説や、映画・アニメの感想を書いています。

自作短編「バトン」

学生時代に働いていたマクドナルドのF先輩は40代で、いかにもスコッチが似合いそうな見た目と裏腹に、いつも何かしらのお茶請けを休憩室に置いて行った。
気になるラインナップは、キットカットプリングルスといったコンビニのお菓子が中心だが、時にはテレビで話題のスイーツや、老舗のどら焼きであることもあった。誰かの誕生日には、冷蔵庫にシュークリームが入っていた。
私たちは素直にお礼を言うこともあれば、時にはお菓子の味を批評もしたが、何を言っても「あっそ。」とだけが返ってきた。
そんなぶっきらぼうな反応も含めて、F先輩のお菓子は、アルバイトの日常の一部になっていた。
 
一度F先輩と、バイト上がりに喫煙室で鉢合わせたことがある。
設備の都合でどうしても使い道のないスペースに設えられた喫煙室は、狭いばかりか天井が低く、部屋は煙で溢れかえっていた。シャーロック・ホームズが通うアヘン屈のようだ。長々とお喋りするような雰囲気ではない。私よりも先に一服していたF先輩は、軽く会釈をしながら退出した。
結局、ちゃんとした形で何かお礼をしたり、F先輩の誕生日を祝うこともないまま、大学卒業と同時にアルバイトをやめ、先輩とはそれっきりだった。
 
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外回りから帰った部長は、「先方への手土産と一緒に買った」と言いながら、紙袋を渡してきた。
「わぁーい!ありがとうございます♪」と受け取って、給湯室に向かう。
甘いものに目がない沙織が、さっそく付いてくる。
 
「中身、何ー?
「んーとね……うわ、フロランタン! アーモンド苦手だから、次はナッツ抜きのやつがいいなぁ。」
「言うねぇ。それにしても部長、何で毎回毎回お菓子くれるんだろ? 気ぃ使ってくれなくてもいいのにね。」
うーん、昔付き合ってた人がお菓子超好きだったとか? あ、もしかしてポッチャリ系が好きとか?」
「それは無いわ!」
 
それにしても本当に、何でだろうな。ありがたいけど、何かモヤモヤする。
 
「さ、お茶はこぶの手伝って!」