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忘れるためのなぐりがき

短編小説や、映画・アニメの感想を書いています。

自作短編「エージェント・ローソン」

ショートショート
ローソンは、埼玉県で1番のコンビニ店員だ。
小さい頃から勉強がとても苦手なうえ、お人よしで間が抜けたところが多かったから、難しい仕事には就かず、中学校卒業と同時に近所のコンビニで働き始めた。
初めのうちは仕事を覚えるのに苦労したけど、今ではすっかりベテランになり、バイトの管理や商品の発注も任されるようになった。発注と品出しが得意で、おでんや冷やし中華の売り出し時期をぴしゃりとキメるだけでなく、お客さんの様子を伺いながらコロッケやドーナッツを上手に売って、お店史上1番の売り上げをたたき出した。火曜日の朝には生鮮食品の特別販売も企画した。ローソンが売る野菜を買うのが、両親の楽しみだった。
 
その頃、日本全体に、普通の人間が怪人になって、街を襲う事件が続発した。
内閣は特別予算を組み、全国から怪人と戦うエージェントを集めた。
ローソンのお店のすぐ近くでも、怪人が出没した。
怪人は、生前に欲しくて欲しくてたまらなかったものをあげると、成仏するのがセオリーだ。
その怪人は、欲しいものの見極めが難航した。どうやら肉まんに反応を示すが、いくら肉まんを放っても消滅しない。
野次馬と一緒に怪人とエージェントの攻防を見物していたローソンは、とっさに醤油と辛子の小袋を投げた。
怪人は嬉しそうにギィエエエエエと叫び、消えていった。
怪人事件に対するクリティカルな打開策を欲していた政府は、ローソンにスカウトを持ち掛け、彼はエージェントの一員に加わった。
 
ローソンの生活は文字通り一変した。
エージェント活動がない時はお店に出たが、全国からマスコミやファンが詰めかけ、お店は大変な騒ぎになった。
コンビニ店員を辞めて、本格的にエージェント活動に専念することを決めると、それまでの人生で味わったことがないほど高々とした気持ちになり、浦和の伊勢丹で両親のためにドンペリやシャネルやネクタイを買った。
しかし、両親はプレゼントを受け取らなかった。そんなことはいいから、また元の店員に戻ってくれ。お前が心配だから。
「お父さんもお母さんも僕が羨ましいんだろう!」と言ったきり、ローソンは実家には戻らなかった。
 
それからローソンは、トップエージェントとして忙しく活躍した。
エージェント活動に便利なように、永田町からほど近い青山にマンションの一室を買った。
母親から一度、「明日は結婚記念日だから一緒に食事でも」というメールが来たが、女の子とイチャイチャしているうちにその日は終わってしまった。
 
ある早朝に、本部から緊急コールが入った。
強力な怪人が出没したらしい。場所は埼玉だ。
「朝飯前に朝飯前の仕事」などと呟きながら現場に直行すると、既に参戦していたスタッフが震える手で、怪人の即席解析資料をローソンに渡した。怪人の正体は、ローソンの両親だった。
スタッフが用意した品々の中には、ローソンが小学生の時にたった1度学校でもらった読書感想文の賞状もあったけれど、まったく効き目がなかった。
いつかのドンペリやシャネルやネクタイも投げた。コロッケもドーナッツも、火曜日の朝に売っていた大根や卵も投げた。それでも2人は火を噴いて暴れまわり、昔働いていたお店もローソンの実家も崩壊して、辺りはいつしか焼け野原になった。
 
「ローソン、もういい、退却しよう。総理が関東全域に避難警報を出す許可を出された。」
「……こちらローソン、総理大臣にその必要はないって伝えてくれ。」
 
現場からあっと声があがった。
ローソンの身体が灰になる頃、怪人はすうと消えていった。